今後の活動が無いVTuberについて語られ続けられることはない.VTuberのファン人口は増える一方だが既に引退しているVTuberについて話し合える人間が増えることは滅多にない.忙しない現代社会においては,とても好きだったとしても新しいコンテンツの提供が無いのなら記憶からは薄れていってしまう.
今一度,振り返ろう,あの時を.
引退された者たち
出雲霞
友達のいない私にはアニメやアドベンチャーゲームの話をしてくれる彼女は貴重な存在だった.VTuberになり活動が忙しくなるとインプットが減りライバー間で起こった話や(ストーリー重視ではない)ゲームの話が中心となる傾向も見られるが彼女は違った.また卯月コウも好んでみていたため,OD組の活動を(物語も普通のコラボ配信も)とても楽しめていた.今となっては配信で物語を紡ぐ者が減っていて残念だが金銭的に不利な面も少なからずあり,仕方がないのだろう.
雪汝
昼間に観る彼女のマイクラをよく覚えている.そもそも昼間に配信をしてくれるというのが貴重なのだ.当時は深夜の配信を観ては早朝に寝て昼間に起きるという生活を送っていたわけだが,昼に起きて誰も配信をしていないと孤独感でつらくなってしまう.雪汝の配信頻度は高くなかったがそれでも嬉しかった.今でこそにじさんじでは月ノ美兎が動画中心にシフトしつつあるが,雪汝は割りと最初から動画も作ったりしていたなと懐かしむ.
久遠千歳
そもそも私が雨森小夜を大好きであり,また宇志海いちごのマイクラを観続けていたという前提があってこそという面もあるが,それ以上に久遠千歳の不死身という性質がどうにも好きだった.現実に溶け合うVTuberの最後に少し書いたが,存在せざるを得ないVTuberという枠組みの中で,存在しないVTuberに興味がある.そんな性分だから,いないようにあろうとするVTuberに惹かれるものは大きく,「永遠の生から解き放たれたい」とする彼女の存在は大きかった.また,そんな中で「永遠の命も悪くないなと思うようにしてくれ」と視聴者へ頼む彼女の側面もまた好きで色々と考えていたが,そんな間に引退してしまい今となっては彼女を遡る手段にも乏しいのは残念でならない.
ゲーム部プロジェクト
2018年の前半に登場したにじさんじとゲーム部プロジェクトは業界の行く末を見せているように思えていた.前者のような配信を主体とする方針と,後者のようにアニメに寄る形式だ.それが演者の待遇の問題でゲーム部プロジェクトが壊れかけてしまい結局いまはアニメ系のVTuberはほぼいない.あおぎり高校のShortsは台本ありきでアニメ的ではあるが,話題や形式などがTikTokerに近くアニメ系とは言えないだろう.とはいえゲーム部プロジェクトが演者とうまくやって今でも活動が続いていたとして,ポケモンの対戦環境は(最も賑わっていた6世代の地続きである)7世代ほど人気はなく,Splatoon 3があるとはいえApexやVALORANTが主体となっていることは想像に難くなく,それならいっそ解体されるのも然もありなんと思ってしまう.
ルキロキチャンネル
こちらもアニメ系のVTuber.ほとんどの動画が歌なのだが,歌う前に軽いアニメが挟まるという斬新な構成(今も目にすることがない).金髪にオタクコミュ障属性を与えて黒髪に単純バカ自信家設定を付与するのもなかなか珍しいと思った記憶がある.また彼女らの特徴的な表情である><やooのような目だが,未だに彼女らほど自然にこの表情が実装されているVTuberを知らない.長くなるので詳しくは書かないが,にじさんじの2Dモデル3.0における表情機能は,前述の3Dモデルの表情への違和感を解消するために実装されたと考えている.なにはともあれ彼女たちは当時から新しいことを色々と行っていたという印象が強い.
SALLA.R
私は親と仲が悪いとかでは無いが,音楽番組で親が親しんだ歌が流れると口ずさむのが苦手で,親世代の音楽に苦手意識があった.これもアイマスのカバーなどで若干和らぎつつあったが,SALLA.Rのロマンスの神様にはかなり助けられた.これをきっかけになんとなしに避けていたVTuberによる親世代の歌の歌ってみたを聴くようになり,より苦手が解消されつつあり,本当に良い機会だったなと記憶している.また彼女の世界観もかなりよく,断片的な情報は鳩羽つぐや名取さなを彷彿とさせたわけだが,結局物語が終わることはなく残念な形で引退となってしまった.やるせない.
アメノセイ
ドワンゴとの相性のよさもさることながら,声の良さが健在で驚いた記憶がある.彼もまた世界観が良いVTuberだったのだが掘り下げが多くないまま活動終了になったのは残念.とはいえ色々と懐かしかったし元気な姿をみられたというのは純粋に嬉しかった.
ささないほうちょう
個人VTuberの中でもかなり好きだった.世界観も,それを補強するための映像も細かく丁寧に作り込まれていた.現実に起こったこと(メンタルヘルス系の話)や動画の企画(ハーブティーなど)も世界観を構成する上で欠かせない要素となっており,かなりうまく出来ているなと感じていた.2Dモデルも特徴的ながら自作であるだけあり動画の他の要素とも溶け合っており,また現実の映像も使われていたが違和感なく合成されていて総じて高品質だった.
恐らく今ある情報はファンによるpixivのイラストだけというのは少し残念だな.
活動の無い者たち
雨森小夜
海ラティブの衝撃を忘れることは出来ない.三秋縋が好きであると公言し感傷マゾ(当時からこの言葉があったかは確かでないが)のようなものを理解して2018年夏を作り出した卯月コウとは違う形で,あの頃の青春を作り出したと思っている.スーパーチャットの読み上げというどうしても観る人が限定されるコンテンツを面白く仕上げたり,生物系の研究に従事しているのではないかと思える面白い境遇について語ってくれたり,サブカルの豊富な雑談をしてくれたりと唯一無二な存在.またキャラデザも好みで,未だに朽木冬子と雨森小夜を見比べては白い制服と黒い制服のどちらが好きなのかなんて考えることもある.ツイートもなく1年経ったが相も変わらぬ配信を待っている.
燦鳥ノム
ロートとどちらが先かは覚えていないが相当早く出てきた大企業のVTuber.文化に力を入れているサントリーらしいとも思ったし,逆説的にサントリーがVTuberをやるなら未来があると捉えられるなとも思った記憶がある.高クオリティな映像とMIXの歌ってみた,コンスタントに提供される企画立った動画,幅広いVTuberを巻き込んだ生放送と大資本らしいやり方だったが,視聴者としては嬉しい限りだった.活動は縮小となったが引退というわけでは無いようで取り敢えず安心している.
キヨミズウナ
ぽんぽこ24で知ったサウナ系VTuber.私はサウナが嫌いなので内容については触れないが,知識も豊富で動画の品質も高く感心していた.またロケでは綺麗な映像も撮っており,本当に力を入れて活動していたのだなとわかるぶん,引退が残念でならない.その力の入れ具合や動画の出来に対して登録者数が伸びなかった印象は視聴者としても拭えず,活動の継続が困難になるのもわからなくはないが.
VTM HIMARI
彼女もまた黎明期のなんでも出来るVTuber.特に音響系に強くにじさんじライバーのMIXなどもしている.まぁ彼女については適当にTwitterに復帰するだろうという感覚が強くあり悲観はしていない.
ひも ののこ
【歌ってみた】アイシー 演奏して歌ってみた/ひもののこ【ののこカバー】に救われた.卯月コウのアイシーは3回ほど聴いて作詞はコウなのだろうかなんてぼんやりと考えているうちに消えてしまい,アイシー/ぼっちぼろまる(self cover)を聞きながらだんだん薄れていくコウの声を必死に思い出そうとしていた.そうして結局コウの残響もなくなった頃にYoutubeによっておすすめされた【歌ってみた】アイシー 演奏して歌ってみた/ひもののこ【ののこカバー】を聴いて運命を感じた.ちょうど脱法アイシーの存在が確認されTwitterを中心に話題になっていた頃にYouTubeが私に勧めたアイシーは違法アップロードではなくカバーであるというのは私を励ましてくれた.つまらない自己肯定と思うかもしれないが2018年2019年の卯月コウには,それだけ人を揺さぶる力があり,私はその対象に間違いなくあったというわけだ.
今年もまた夏が始まる.30度を超える日々が続き,3日後には7月の幕が開ける.今年こそは夏を過ごしたい.